サーモカメラの現場でよくある誤測定の原因のほとんどは放射率の設定ミスです。「温度が低く出る」「異常がないのに高温に見える」という現象の多くは放射率が正しく設定されていないことが原因です。この記事では放射率の基礎から現場での正しい設定方法までを解説します。
放射率とは何か
放射率とは物体が赤外線を放射する効率を示す値です。0〜1の間の数値で表されます。
理想的な放射体(黒体)の放射率は1.0です。現実の物体はすべて1.0より低い放射率を持っています。
放射率が高い物体は自分自身の温度に応じた赤外線を多く放射します。放射率が低い物体は自分自身の赤外線放射が少なく、周囲の赤外線を反射する割合が増えます。
放射率が測定温度に与える影響
カメラの放射率設定が実際の物体の放射率と異なる場合、表示温度が大きくずれます。
具体例 実際の温度が50℃の光沢アルミ面(放射率0.10)をデフォルト設定(放射率0.95)で測定した場合、表示温度は実際より大幅に低く表示されます。
逆に放射率が低い物体が周囲の高温設備の赤外線を反射している場合、実際より高温に表示されます。
素材別の放射率一覧
現場でよく使う素材の放射率の目安です。
| 素材・状態 | 放射率の目安 |
|---|---|
| 黒色塗装面 | 0.95 |
| 人間の皮膚 | 0.98 |
| コンクリート・レンガ | 0.95 |
| 木材 | 0.90 |
| プラスチック | 0.85〜0.95 |
| ゴム | 0.90〜0.95 |
| 酸化した鉄・鋼 | 0.70〜0.80 |
| 酸化した銅 | 0.70〜0.80 |
| 酸化したアルミ | 0.20〜0.40 |
| 光沢のある鉄・鋼 | 0.10〜0.20 |
| 光沢のある銅 | 0.05〜0.10 |
| 光沢のあるアルミ | 0.05〜0.15 |
| ステンレス(研磨面) | 0.10〜0.20 |
| ステンレス(酸化面) | 0.50〜0.80 |
現場での放射率設定方法
方法①:素材から推定して設定する 上記の一覧表を参考に対象素材の放射率を設定します。最も手軽な方法ですが素材の表面状態によって誤差が生じます。
方法②:黒体テープを使う 測定対象に黒体テープ(放射率0.95以上)を貼り、テープ部分の温度を測定します。テープ部分の温度が実際の温度に近い値です。その温度になるようにカメラの放射率設定を調整します。
方法③:接触式温度計と比較する 接触式温度計で実際の温度を測定して、サーモカメラの表示温度が一致するように放射率を調整します。最も正確な方法です。
受配電盤点検での放射率設定の実務
受配電盤の点検では以下の素材が混在しています。
| 部品 | 素材・状態 | 推奨放射率設定 |
|---|---|---|
| ブレーカー本体 | 黒色プラスチック | 0.95 |
| バスバー | 光沢銅 | 0.05〜0.10 |
| 酸化したバスバー | 酸化銅 | 0.70〜0.80 |
| ケーブル被覆 | 黒色ゴム | 0.90〜0.95 |
| 筐体内面 | 塗装鋼板 | 0.90〜0.95 |
バスバーのように放射率が極めて低い部品は測定が難しいです。黒体テープを貼るか、放射率が高い部品(ケーブル被覆・プラスチック部品)で温度を確認する方法が実用的です。
放射率設定を間違えた時の症状
症状①:実際より低い温度が表示される 放射率を高く設定しすぎている場合に起きます。光沢金属をデフォルト(0.95)で測定するとこの症状が出ます。
症状②:実際より高い温度が表示される 放射率を低く設定しすぎている場合または周囲の高温物体の反射を拾っている場合に起きます。
症状③:撮影アングルを変えると温度が変わる 反射が影響しているサインです。放射率の問題ではなく撮影アングルの問題です。
まとめ
- 放射率は物体が赤外線を放射する効率を示す0〜1の値
- 放射率設定ミスはサーモカメラの誤測定の最大の原因
- 光沢金属はデフォルト値(0.95)では大幅に低い温度が表示される
- 正確な測定には黒体テープまたは接触式温度計との比較が有効
- 撮影アングルを変えると温度が変わる場合は反射の影響
放射率設定・サーモカメラの正しい使い方のご相談はお気軽にお問い合わせください。

コメント